浅野武樹は呆然とした桜井美月とすれ違い、泣き声を追って2階の子供部屋へと上がっていった。
そっとドアを開けると、部屋の中は暖かな黄色い薄明かりに包まれていた。部屋の隅にあるライオンの夜灯が柔らかな光を放っていた。
浅野武樹は小山千恵子の窓辺を思い出し、胸の中が不意に温かくなった。
小さな影が子供用ベッドに座り、まだすすり泣いていた。
浅野武樹はドア口に立ったまま、どうしていいか分からず、声をかけて慰めるべきか、抱き上げるべきか迷っていた。
父親として、この時どうすべきなのかさえ分からなかった。
健一郎はドア口に立つ大きな影に気づき、驚いて一瞬むせ込み、泣き声を止めた。涙で潤んだ大きな瞳がまばたきを繰り返した。
子供が自分を怖がっているのを見て、浅野武樹はより頭を悩ませた。