第275章 健一郎の親権が欲しい

浅野武樹は怒りを抑えながらも、声の中の冷たさと威圧感は隠しきれなかった。

「桜井美月、私は前にも言ったはずだ。私を尾行するなと」

桜井美月は覚悟を決めたような表情で、泣きそうな笑みを浮かべた。

「あの時は確かに手段を選ばなかったけど、今は違うの」

浅野武樹は興味深そうに顔を上げ、腕を組んで目の前の顔色の悪い女を見た。「ほう?」

彼は目の前のこの女の手段が大したものになるとは思えなかった。

桜井美月の目は絶望と狂気に満ちており、冷笑を浮かべた。

「あなたが離婚を持ち出した後、離婚弁護士を寄越したでしょう?彼らの方からこうするように提案されたの」

浅野武樹は桜井美月が離婚という言葉を口にするのを聞き、目から興味が消え、冷たく嘲笑った。「で、何が欲しいんだ?」

桜井美月はバッグの持ち手を握りしめ、歯を食いしばって切り出した。「健一郎の親権が欲しいの」

浅野武樹は余裕の表情で目の前の女を見つめ、両手を組んで冷たい目で彼女を値踏みした。

この女はわかっていないのか?

彼らの結婚はそもそも詐欺だったのだ!そして健一郎も、ただの代用品に過ぎない。

浅野武樹は目を伏せ、黒金のペンを長い指で回しながら、眉の端を上げた。

「つまり、私の婚姻中の不倫の証拠を掴んで、法廷で逆転を狙うというわけか?」

桜井美月は歯を食いしばったまま黙っていた。

彼女のこの手は退くことで攻めるという策だった。

離婚訴訟で子供の親権を争うという名目で、健一郎と自分の実際の血縁関係を証明しようとしていた。

浅野武樹はあのDNA鑑定書を思い出し、すぐに忍耐を失い、写真を桜井美月に突き返して、いらだたしげに言った。

「好きにすればいい。ただし、浅野家でこれ以上の騒ぎは起こすな」

男は冷笑し、再び目の前の書類に目を落とし、軽く威嚇するように言った。

「もしまたこのような面倒を起こせば、浅野社長でもお前を守れなくなるかもしれないぞ」

桜井美月は胸が締め付けられた。彼女もそのことはよくわかっていた。

駒は、使える時にこそ価値がある。

彼女と浅野遥との取引は、彼女が小山千恵子の代わりを務められるという前提の上に成り立っていた。

しかし誰が想像しただろう、あの賤女は実は死んでいなかったのだ!

今や帝都に戻り、図々しくも浅野武樹の側に戻り込んできた。