小山千恵子は火傷したかのように手を引っ込め、頭の中では制御できないほどモリ先生の臨床実験に関する暴露と批判を思い出していた。
電気ショック療法、催眠……
これらの手段は心理療法というよりも、拷問のように聞こえた。
「あなた……」小山千恵子は喉が詰まりそうになった。「臨床実験の内容について、知っているんですよね?」
浅野武樹は視線を外し、目の奥に優しい色が浮かんだ。
彼女は自分のことを心配しているのか?
男は骨ばった指でハンドルを無意識に軽く撫でながら、淡々と言った。「ああ、そんなに心配なら、一緒に来いよ」
小山千恵子は眉をひそめ、半歩後ずさりした。車は砂埃を上げて走り去り、彼女は微かな笑い声を聞いたような気がした。
浅野武樹は以前、ひどいことをして、彼女を苦しめたことがあった。
でも、それでも彼女が長い間愛してきた男だった。
病床で苦しむ彼を見なければならないと思うと、小山千恵子の心は締め付けられ、鼓動の一つ一つが痛みを伴った。
彼女は浅野武樹の弱い姿を見たことがあるからこそ、ライオンのように誇り高く輝くこの男は、世界の頂点で意気揚々としているべきだと思った。
小山千恵子は頬を軽く叩き、急いでオフィスに戻った。
よし、しっかりしなきゃ。まだたくさんの仕事が待っている。
浅野武樹自身の困難は、彼自身に任せておこう。
黒のカリナンは湖畔別荘へと向かい、道中、浅野武樹は小山千恵子の表情を思い出しながら、心臓が思わず早くなった。
小山千恵子が最初に彼の側に来た時、あの手この手で彼の前に現れ、近づこうとしていた。
その時の自分は、心に何の波風も立たなかった。
そして小山千恵子も余裕綽々と、すべてを計算し尽くしたような様子だった。
彼らの関係はいつも緊張感に満ち、知恵を競い合っていた。
徐々に、この女性は彼の前でより多くの感情を見せるようになった。怒り、驚き、無防備な寝顔……
これらすべてが小山千恵子をより一層生き生きとさせた。目の前にいる彼女も、記憶の中の彼女も。
気がついた時には、いつも彼女のことを考えていた。
浅野武樹は少し悩ましげに前髪をかき混ぜた。
彼は小山千恵子に対する特別な気遣いや関心を認めたくなかった。芽生えつつある感情を認めたくなかった。