第292章 私と桜井美月は結婚していない

小山千恵子は深いため息をつき、額に手を当てた。

これは確かに浅野武樹がやりそうなことだった。

浅野武樹が鍵を取り出し、ドアを開けようとしながら、笑みを含んだ声で尋ねた。「中を見て行かない?」

小山千恵子は目を回して閉めようとしたが……

浅野武樹がこんなボロアパートにどうやって住むのか、とても気になった!

歯を食いしばってドアを閉め、小山千恵子の小柄な影が一瞬で浅野武樹の前を通り抜けて中に入った。

部屋の中には年代物の無垢材の家具があり、かすかな白檀の香りが漂っていた。

家は古かったが、採光も良く、風通しも良好で、全体的にシンプルで温かみのある雰囲気だった。

浅野武樹が上着を脱いで古風なコートハンガーに掛けると、小山千恵子がその後に続き、部屋の中から声が聞こえてきた。