女は拒むような仕草をしながらも、白い脚を浅野武樹の足に絡ませようとしていた。
男は真っ直ぐに立ったまま、微動だにせず、避けようともしない様子だった。
骨ばった指が伸び、揺れるグラスを掴んだ。
小山千恵子は歯を食いしばり、バタンとテラスのドアを開けた。
冗談じゃない、こんな時、去るべきなのは決して自分ではない。
「浅野社長、お二人の...お楽しみを邪魔して申し訳ありません」
冷たい声が寒気を帯びていた。小山千恵子は三歩離れた場所に立ち、心の中で説明のつかない怒りが渦巻いていた。
この男を心配していた自分が馬鹿らしい。人目につかない場所で、随分と楽しんでいるじゃないか。
浅野武樹はグラスを持ったまま振り返り、薄手のドレス姿で寒風に立つ小山千恵子を見た。
ドレスも月明かりも優しかったが、浅野武樹は彼女の目に怒りを見た。