女は拒むような仕草をしながらも、白い脚を浅野武樹の足に絡ませようとしていた。
男は真っ直ぐに立ったまま、微動だにせず、避けようともしない様子だった。
骨ばった指が伸び、揺れるグラスを掴んだ。
小山千恵子は歯を食いしばり、バタンとテラスのドアを開けた。
冗談じゃない、こんな時、去るべきなのは決して自分ではない。
「浅野社長、お二人の...お楽しみを邪魔して申し訳ありません」
冷たい声が寒気を帯びていた。小山千恵子は三歩離れた場所に立ち、心の中で説明のつかない怒りが渦巻いていた。
この男を心配していた自分が馬鹿らしい。人目につかない場所で、随分と楽しんでいるじゃないか。
浅野武樹はグラスを持ったまま振り返り、薄手のドレス姿で寒風に立つ小山千恵子を見た。
ドレスも月明かりも優しかったが、浅野武樹は彼女の目に怒りを見た。
彼女の目の中のその火花が、浅野武樹の荒れていた心を瞬時に和らげた。
彼女はまだ自分のことを気にかけているのだろうか...
見知らぬ女は険しい表情で「何か用?」と言った。
もう少しで手に入るはずだった男なのに、こんな空気の読めない女が邪魔に入るなんて。
小山千恵子は騒ぎ立てる女を無視し、冷淡に言った。「浅野社長、寺田補佐がお探しです」
浅野武樹は小山千恵子を見下ろし、眉を上げて何も言わず、薄い唇に笑みを浮かべた。
見知らぬ女は大いに興を削がれ、立ち去ろうとして浅野武樹の手からワイングラスを取ろうとしたが、小山千恵子に阻止された。
「このワイン」小山千恵子は輝く瞳を向けて「浅野社長の代わりに検査に出します。問題があれば、即刻告訴します」
見知らぬ女は色を失った。
この女は邪魔をするだけでなく、証拠を掴んで告訴までするつもりだと!
見知らぬ女は憤然とした表情でテラスを去り、ドアをバタンと閉めた。
小山千恵子はため息をつき、やっと寒風の痛さを感じ、思わず身震いした。
温かい体温の残る黒いスーツの上着が肩にかけられ、濃厚な木の香りが漂った。
上着に残る暖かさに小山千恵子は震えた。
浅野武樹は揶揄うように低い声で言った。「寺田が私を探しているって?」
小山千恵子は顔を赤らめた。それは彼女が咄嗟につ
いた嘘だった。
返事がないのを見て、浅野武樹は小山千恵子の困った表情を見ながら、上機嫌で笑った。