場面は一時制御不能になり、収拾がつかなくなっていった。
警備員は仕方なく桜井美月を守りながら、浅野遥を会場内に先に案内した。
桜井美月は表情こそ穏やかだったが、目には我慢と重々しさが隠されており、まるで大きな屈辱を受けながらも必死に耐えているかのようだった。
「申し訳ありませんが、本日はプライベートな事項については話しません。根も葉もないうわさは信じないでください。ショーに注目していただければと思います。ありがとうございます」
当事者のこの白々しい様子を見て、パパラッチたちはまるで火をつけられたかのように更に沸き立ち、フラッシュは目が開けられないほど激しく光った。
最近の浅野武樹と桜井美月の離婚騒動に加え、今日の浅野武樹の精神状態が良くないという話題も相まって……
桜井美月がこれほど傷つき、言いよどみながら話を避けるような態度を見せる。
これはまさに事実を認めているようなものだ!
スタッフが車に置き忘れたショールを持ってきて、桜井美月は深まる秋の冷たい風の中でカシミアのショールにくるまり、足早に会場に入った。
浅野武樹は早めに会場入りし、親しい取引先と簡単な挨拶を交わした後、隅のソファに座って仕事を処理していた。
傍らに立つ寺田通の表情は次第に悪化し、会場内でも騒めきが絶えず、ひそひそ話が聞こえてきた。
「あれが浅野グループの浅野武樹?あんなにイケメンなのに、DV するなんて信じられないわ……」
「数年前にもそんな噂があったわ。あの時の方が今より具合悪そうだったわね」
「裏で遊びすぎて体を壊したんじゃない?はぁ、お金持ちは派手よね」
寺田通は眉をひそめ、増えていく来場者と、次第に険悪になる視線を見ながら、渋々口を開いた。
「社長、世論について広報部に対応させましょうか」
浅野武樹は顔を上げ、冷たい目つきで会場内を見渡した。
それまで様子を窺っていた人々は、その冷気を帯びた視線に出会うと、すぐさま目をそらした。
浅野武樹は視線を戻し、冷淡に言った。「必要ない。寺田、君は分かっているはずだ」
寺田通は表情を硬くし、まだ何か言いたげだった。「しかし——」
浅野武樹は眉をひそめ、彼の言葉を遮った。「浅野遥の私生子がまもなく帰国する」
寺田通は立ち尽くしたまま、心の中は波が荒れ狂っていた。