浅野武樹の電話は通じたものの、誰も出なかった。
小山千恵子は一回かけるたびに、心配が募っていった。
モリ先生の臨床治療のため、浅野武樹はよくめまいや頭痛の症状に悩まされていた。
これらの症状を和らげ、日常生活に支障が出ないよう、モリ先生は彼にいくつかの抗めまい薬を処方していた。
小山千恵子は浅野武樹から目を逸らそうとしても、彼が人目を避けてこっそりと眉間をさすっているのに気付いていた。
寺田通も顔を青ざめさせた。浅野社長が薬を飲んでいることなど聞いていなかった。もしそうなら、自分は大変なことをしでかしてしまったことになる。
小山千恵子は田島さんの電話番号を見つめ、しばらく迷った後、眉をひそめて携帯をしまった。
田島さんは朝早くに訪ねてきて、優子を連れて行った。幼稚園が始まるまでの間、浅野武樹の指示で小山千恵子に代わって小山優子の面倒を見るということだった。