第301章 浅野武樹は病気?

浅野武樹の電話は通じたものの、誰も出なかった。

小山千恵子は一回かけるたびに、心配が募っていった。

モリ先生の臨床治療のため、浅野武樹はよくめまいや頭痛の症状に悩まされていた。

これらの症状を和らげ、日常生活に支障が出ないよう、モリ先生は彼にいくつかの抗めまい薬を処方していた。

小山千恵子は浅野武樹から目を逸らそうとしても、彼が人目を避けてこっそりと眉間をさすっているのに気付いていた。

寺田通も顔を青ざめさせた。浅野社長が薬を飲んでいることなど聞いていなかった。もしそうなら、自分は大変なことをしでかしてしまったことになる。

小山千恵子は田島さんの電話番号を見つめ、しばらく迷った後、眉をひそめて携帯をしまった。

田島さんは朝早くに訪ねてきて、優子を連れて行った。幼稚園が始まるまでの間、浅野武樹の指示で小山千恵子に代わって小山優子の面倒を見るということだった。

二人の子供が一緒に過ごす様子を想像し、小山千恵子はそれ以上断ることもしなかった。

我に返り、小山千恵子は契約書類をバッグに入れ、社長専用エレベーターに乗り込んだ。

「寺田補佐、お仕事を。私は様子を見てきます。」

小山千恵子はエレベーターがゆっくりと下降するのを見つめながら、初めて専用エレベーターがこんなにも遅く感じた。

地下駐車場から車を出すと、まだ朝のラッシュ時で、道路は車で溢れかえっていた。小山千恵子は信号で止められ、細い指でハンドルを叩いていた。

何度か浅野武樹に電話をかけたが、やはり応答はなかった。

記憶の中で、彼がこれほど酒を飲んだことはなかった。以前はたくさん飲んでも、少なくとも意識ははっきりしていた。

考えれば考えるほど心配になり、小山千恵子は車を歪んだ形で駐車スペースに停め、急いで階段を上った。

浅野武樹の部屋の前に立つと、小山千恵子は突然臆病になった。

彼女は胸に怒りを抱えたまま、こうして駆けつけてしまったのだ。

小山千恵子は無意識にバッグの持ち手を握りしめ、ため息をついた。

もう来てしまったのだから仕方ない。

重厚な防犯ドアをノックし、インターホンも押した。

部屋の中は静まり返っており、足音一つ聞こえなかった。

小山千恵子は焦りながらもう一度ノックし、声を上げた。「浅野武樹?」

部屋からは何の反応もなかったが、隣の部屋のドアが開いた。