第300章 彼はもう小山千恵子の愛を求める資格がない

寺田通は容赦なく、浅野武樹の痛いところを突いて踏みにじった。

浅野武樹は目の前がぼやけ、ウイスキーのストレートを一杯飲み干して、ようやく正気を取り戻した。

まだ取り戻せていないこの記憶は、目の前の苦い酒よりも消化しがたいようだった。

彼は苦しそうに口を開いた。「あの時、俺はこのことを知っていたのか?」

寺田通は肩をすくめた。「もちろん知っていた。そんなに自分を責めるな。お前も確かに駆けつけたんだから」

浅野武樹の心は少しも軽くならなかった。

小山千恵子にこんなことが起きるべきではなかった!

しかし今となっては、後悔しても無駄なことだった。

浅野武樹はこめかみを揉みながら、酒のせいなのか、それとも受け入れがたい過去のせいなのか、めまいを感じていた。

「寺田、帰ってくれ。一人になりたい」

過去の醜い傷跡を他人に暴かれる感覚は、モリ先生のベッドで思い出した時よりも、さらに居たたまれない気持ちにさせた。

寺田通は姿勢を正し、真剣な表情を浮かべた。

「浅野武樹、これで終わりだと思っているのか?お前が小山優子がお前の子供だと知った今、まだ思い出していないかもしれない、もう一つのクソみたいな事実を教えてやる」

浅野武樹の瞳孔が縮み、寺田通が何を言おうとしているのか予感はあったが、心の中では受け入れを拒否していた。

寺田通は憤りを感じながら、グラスの酒を飲み干し、パンと音を立てて置いた。

「小山お嬢さんが救出された後、すぐに容態が危篤になった。骨髄移植で一命を取り留めた後、妊娠が発覚したんだ」

寺田通はため息をつき、あの日々を思い出して、辛い気持ちになった。

「お腹の子供のために、薬を使いたくなかった彼女は、療養院の無菌室で、免疫機能が徐々に回復するのを待つしかなかった」

「小山お嬢さんは妊娠反応がひどく、食べ物も水も受け付けなかった。あの時、なぜ彼女がそこまでしてこの子を産もうとしたのか、私には理解できなかった」

寺田通は同情的な目で浅野武樹を見つめた。「彼女はその時、もうお前とは二度と会えないと思っていたのかもしれない」

浅野武樹は体が揺らぎ、耳の中で鋭い耳鳴りが響き、指先まで痺れるほどの心の痛みを感じた。