浅野武樹は手の怪我がまだ治っていなかったが、小山千恵子を力強く抱き上げた。腕の筋が浮き出るほど痛かったが、少しも手を緩めることはできなかった。
医師と看護師が急いで駆けつけてきた。「浅野さん、どうされましたか?」
看護師は入室するなり、浅野武樹に抱かれた顔色の悪い、汗びっしょりの小山千恵子を見て一瞬驚いた。すぐに彼女の柔らかな体を受け取り、救急処置を開始した。
「機器の準備を!」医師は振り返って急いで尋ねた。「何を食べて、薬は飲みましたか?転倒はありましたか?」
浅野武樹は髪が乱れ、目には自責の念と心配が満ちていた。「食事は病院から届いたものなので、問題はないはずです。私が側にいなかったので、他に何があったかはわかりません。」
医師の目に明らかな失望の色が見えたが、看護師の方から小声で報告があった。「心拍、血圧などの数値は正常です。体温37度で、発熱の兆候は見られません。」
小山千恵子はもともと具合が悪く、次々と支離滅裂な夢を見て、心が疲れ果てていた。
眠りの中で、あちこちに運ばれ、あれこれと扱われているような感覚があり、少しも安らぎを得られなかった。
目を開けると、まぶしい光で目が痛くなり、しばらくして部屋の状況がようやく見えてきた。
部屋中の医師と看護師が、驚いたように自分を見つめていた。
傍らに立っている男性は、どうしていいかわからないような様子だったが、どこか安堵の表情を浮かべていた。
医師は気遣わしげに尋ねた。「小山お嬢さん、どこか具合が悪いところはありますか?」
小山千恵子も少し戸惑った様子で答えた。「大丈夫です。少し頭が痛かったので、イブプロフェンを飲んで、眠くなったので少し寝ただけです。」
医師は安堵の息をつき、傍らの男性の肩を叩いて、看護師に機器の片付けを指示した。
浅野武樹は背筋を硬くしたまま立っており、まだ先ほどの動揺から立ち直れていないようだった。
彼の人生で、これほど慌てふためいたことはなかった。
かつて小山千恵子が何度も危篤状態になった時も、彼は気付かなかった。むしろ、彼女がその時既に不治の病に冒されていたことさえ知らなかった。
後になって知った時も、小山千恵子が何度も死の淵をさまよっていた事実に、ただ後悔と恐れを感じるばかりだった。
彼には慌てふためく権利さえなかった。