浅野武樹は頷いた。「間違いなければ、机の引き出しの中にあるはずだ」
小山千恵子はその革製のノートを取り出し、浅野武樹が手を伸ばして受け取った。
彼は慣れた様子でページをめくり、あっという間に祖父が小山雫が亡くなった日の記録を見つけ出した。
彼の両目には抑えきれない後悔の色が浮かび、眉をひそめながら、つぶやくように読み上げた。
「潔白を証明するために自ら命を絶つなんて、敵の思う壺ではないか?」
小山千恵子の心が締め付けられた。
確かに、祖父の日記にはそう書かれていた。
そこで彼女は気づいた。浅野武樹はまだ、彼女の母の死の真相を知らないのかもしれない。
小山千恵子は浅野武樹の問いかけるような眼差しを見て、一瞬胸が痛んだ。
彼はつい先ほど天災と人災の洗礼を受け、かつて持っていたすべてを失ったばかりだ。
そんな今、母親が陥れられて死んだという事実を告げるなんて……
彼女にはそんな残酷なことはできなかった。
浅野武樹は日記を布団の上に広げ、長い指で優しく押さえながら、低い声で話し始めた。
「千恵子、記憶を取り戻してから、一度も謝罪していなかった。それは自分の過ちを認めていないからではなく、私が犯した過ちは、軽々しい謝罪で済むようなものではないからだ」
小山千恵子は椅子を引き寄せ、ベッドの傍らに腰かけ、複雑な表情で俯く男を見つめた。
彼は両手を握りしめ、内心で葛藤しているようだった。
「君が...去った後、私はここで療養している時に、この日記を見つけた。その時初めて確信したんだ。母の死は、君の母である小山雫とは無関係だったということを。あんなに長い間、私は君を誤解していた。それどころか、それを口実にして……」
浅野武樹は歯を食いしばり、もう言葉を続けることができなかった。しかし小山千恵子の心は平静で、まるで他人の話を聞いているかのようだった。
彼女は淡々と口を開き、かつてないほど落ち着いた様子で話し始めた。
いくつかの事実は、浅野武樹が知り、向き合わなければならないことだった。
それは彼女の優しさで変えられることではなかった。
「そうよ、藤田おばさんの死は、確かに私の母とは無関係だった。犯人は黒川芽衣よ」
浅野武樹の目が冷たく光った。「何だって?」
彼が知っていたのは、黒川芽衣が桜井美月の実母だということだけだった。