小山千恵子の目は、また涙で曇ってしまった。
彼女は涙を流すのが嫌いで、弱い自分がもっと嫌いだった。
白血病が治り、優子を産んでから、二度と簡単には涙を流さないと誓っていた。
しかし、浅野武樹専用の病室に来てから、何度も例外を破ってしまった。
浅野武樹から離れた後、小山千恵子は金の檻から逃げた鳥のようだった。
自分が息も絶え絶えだと分かっていても、自由の喜びが大半の感情を占めていた。
自分がいなくなった後、浅野武樹がどんな日々を過ごすのか、彼女はほとんど考えなかった。
たとえ苦しみ、意気消沈していても、それは彼が受けるべき報いであり、支払わなければならない代償だった。
彼女は利己的に彼の過去を覗き見て、自分が去った後の浅野武樹の崩壊寸前の世界も見た。
彼女は、浅野武樹のこの哀れな姿を高みから見下ろし、冷たく笑うことさえできると思っていた。
でも、なぜ時が過ぎ去り、浅野武樹が自分の頭と感情の間で繰り返し苦悩する姿を見ると、こんなにも胸が痛むのだろう。
愛し合えば愛し合うほど、互いに与える傷は深くなる。
相手が自分を深く愛していると確信しているからこそ、与える傷が最も鋭い刃になるのかもしれない。
小山千恵子は小さく鼻をすすり、指が少し震えながらも、次のページをめくった。
【夢遊病の症状を抑えるため、医師は新しい薬を処方した。薬を変えてから、もう彼女に会えなくなった。】
【人は時々、本当に子供じみて笑えるものだ。彼女に会うべきではないと分かっているのに。】
ここで文字が長く途切れていた。その時の浅野武樹は、筆を取るまでにずいぶん躊躇したようだった。
一文を書き記す時、文字は苦々しく、全力を尽くしたかのようだった。
【会いたい、我慢できない。】
このページの紙には多くのしわがあり、いくつかの文字の端が濡れていた。
小山千恵子が浅野武樹と出会ってから最後に別れるまで、前後十数年あった。
この十数年という長い時の流れの中で、彼女は浅野武樹の涙を見たことがなかった。
細い白い指が紙面のしわを慎重に撫でると、それらの跡は熱を帯びているかのように、彼女の冷たい指先を焼くようだった。
ドアの外から微かな足音が聞こえ、ドアが極めて慎重にノックされた。
「千恵子、起きてる?」