第368章 浅野武樹が罠にはまる

小山千恵子は礼儀や体面も気にせず、手で三重に重なった人混みを力強く掻き分け、目には慌てと不安が満ちていた。

彼女自身も気づかないうちに、口の中で健一郎の名前を呟き続けていた。

この瞬間、小山千恵子の耳には高い耳鳴りだけが響き、会場の喧騒や議論は全く聞こえなかった。

浅野早志に何かあってはいけない、絶対に何かあってはいけない……

小山千恵子が何も考えずに会場に飛び込んだ時、千葉隆弘はすでに事故現場に到着しており、袖をまくり上げ、歯を食いしばって重いタイヤを素手でめくっていた。

小山優子はスタッフの助けを借りてヘルメットを外し、カートから離れた。

彼女は小さな手で横にいる人を強く押しのけ、浅野早志のいる位置へと走った。

スタッフが急いで駆け寄り、両腕で小山優子の小さな体をしっかりと抱き留め、近づかせないようにした。