寺田通は目を閉じ、長いため息をつくと、白い息が彼の表情を曇らせた。
「説得できないし、説得しようとも思わなかった。あなたが決めたことは、誰も引き返させることはできない。ただ、もう二度と、言い出せないために二人が擦れ違うのを見たくないんだ!行くにしても、残るにしても、この気持ちは少なくとも小山千恵子に伝えるべきだ。」
浅野武樹はその言葉を聞き入れたが、依然として黙り込んでいた。
寺田通は電話を切ろうとして、最後の一言を残した。
「少なくとも、あなたが与えたものが彼女の望むものなのかを聞いてみて、二人の関係の中で、彼女にも選択する権利があることを認めてあげて。」
ビデオ通話が切れ、浅野武樹は顔を両手で覆い、深い無力感を感じた。
彼は分かっていた。感情を吐き出すことは、心の中に抑え込むよりも疲れるということを。だからこそずっと抑え込む習慣があった。