大野武志はしばらく呆然としていた。浅野秀正の言葉の意味が理解できなかったようだ。
この利益ばかりを追求する男が、善意から彼の地位を固めるのを手伝うはずがない。
大野武志の目は貪欲な光を放ち、躊躇いがちに言った。「浅野社長、私はただのあなたの駒に過ぎません。あなたが私を助ける理由が思い浮かびません」
浅野秀正は冷ややかに鼻を鳴らした。
この金歯だらけの男は、頭でっかちで、心の中も表に出せないような計算でいっぱいだった。
状況に迫られなければ、彼と組むことさえ潔しとしなかっただろう。
浅野秀正は頭を下げ、怠惰にスマホを数回タップした。
大野武志の方からチンという音が聞こえ、彼は表情を変え、メールの赤い点をタップした。
浅野秀正は冷淡に口を開き、手の中のペンを退屈そうに弄んでいた。
「大野武志、私にはあなたを騙す暇はないし、あなたは私が時間をかけて計算するほどの価値もない。あなたも心の中ではわかっているはずだ」
「これは、これは?!」
大野武志はメールの内容を見て、非常に驚き、余裕を持って黙っている浅野秀正を見上げ、声さえ震えていた。
「……黒川啓太の個人スケジュール?どうやって手に入れたんだ?」
黒川家の黒川啓太は、普段から控えめな人物だった。
彼の正確な行方を知る人はほとんどおらず、ましてやこれほど詳細な個人スケジュールなど。
そして黒川啓太こそが、黒川芽衣の弱点だったのだ!
大野武志の顔に陰険な笑みが浮かんだ。
彼がタイミングを見計らって、黒川啓太に少し手を出せば……
黒川芽衣は必ず大打撃を受けるだろう。あの女が発狂する様子を見れば、彼女は直接崩壊するかもしれない。
しかも、彼らは今南アメリカにいて、浅野秀正が間に立っているので、黒川家がどれほど力を持っていても、ここまで調査は及ばないだろう。
万が一、黒川家が本当に南アメリカまで来たとしても、彼らのホームグラウンドで何もできないはずだ!
大野武志の呼吸は荒くなり、目をきょろきょろさせ、凶暴な光を放った。
彼は拳を握りしめ、歯を食いしばり、目を細めた。
「浅野社長、こんな貴重な情報をただでくれるなんて、あなたらしくないですね」
彼は浅野秀正に全く目的がないとは信じられなかった。
結局のところ、彼らの間には服従はあっても、信頼はなかった。