浅野武樹の心には大きな石が乗っかったように、とても重苦しかった。
ビジネスの世界では、目に見えない争いがあっても、命に関わることは少なく、せいぜい資金を失って再起を図るだけだ。
かつて小山千恵子の周りに潜んでいた凶悪な勢力に対しても、彼は周到な警備を提供し、常に彼女の安全を確保することができた。
しかしレース場で起こることは、法律や道徳の管轄外ではないにしても、衝突や事故が発生した後では、何を追及しても手遅れになる。
以前の彼なら、強硬な手段で浅野早志と小山優子にすぐにレース競技から離れるよう命じていただろう。
しかし今の彼は、もうそのような独断専行をしたくなかった。
千葉隆弘は心配そうな顔で、それぞれ思いにふけるふたりを見て、ため息をついた。
「焦らないで。状況は完全に制御不能というわけではないよ。ヨーロッパでは、こういった因縁のあるドライバー同士というのは珍しくないんだ」