浅野武樹は目を大きく見開き、数秒間呆然としてから、急いでコーヒーカップを置き、咳を数回抑えた。
ナプキンを取って口を拭いてから、再び小山千恵子を見つめ、その目には隠しきれない期待が浮かんでいた。
「君が言うデートとは……」
小山千恵子は視線をそらし、顔を赤らめ、逆に質問されて少し恥ずかしくなった。
ふわふわのパンを一口かじりながら、女性は小声で説明した。「そういう意味よ」
浅野武樹の暗い瞳が一瞬で輝き、目を伏せて微笑むと、彼全体が柔らかな光に包まれたようだった。
「いいよ、何がしたい?」
小山千恵子はボウルの中のブルーベリーをフォークでつついて、少し頭を悩ませた。
彼女と浅野武樹は、半分幼なじみのような関係で、確かに一般的な意味でのデートをあまり経験していなかった。
小山千恵子の目には少し迷いがあった。「買い物したり、映画を見たり、食事したりするんじゃない?」
浅野武樹も考え込むように黙っているのを見て、彼女は微笑んだ。「でもデートで一番大切なのは二人で過ごすことよね。何をするかは、実はどうでもいいことだと思う」
男性は優しく微笑み、低い声で言った。「任せてくれ。さあ、食べて。先に猫に餌をやってくる」
浅野武樹が笑いながら席を立つと、小山千恵子はようやくほっと息をついた。
すでに二度も結婚した経験のある男性で、どんな親密なことも経験済みなのに……
どうしてデートという言葉になると、こんなに恥ずかしくなるのだろう!
猫の餌といえば、小山千恵子はもう何日も包包(パオパオ)を見ていなかった。
森の別荘が広すぎて、見知らぬ環境に猫がストレスを感じているようで、いつも何かの場所に隠れて、こっそり観察しているようだった。
さすが浅野武樹が連れてきた猫で、彼女がいる時は、包包はいつも姿を現さなかった。
男性はいつも缶詰を開けながら冗談めかして言った。「包包はきっと君に嫉妬しているんだよ」
小山千恵子の心も珍しく楽しさで満たされ、階段を上がって服を着替え、少し鮮やかな口紅を塗ると、全身が輝き、美しく魅力的に見えた。
時間を確認すると、もう遅くなっていた。小山千恵子はバッグを手に取り、上着を腕にかけて、急いで階段を下りた。
使用人はすでに玄関で待っていた。
「奥様、お気をつけて。旦那様は玄関でお待ちですので、焦らないでくださいと」