店員は一瞬固まり、無意識に後ろの浅野武樹を見て、頭の上に疑問符が浮かびそうになった。
しかしすぐにそれが失礼だと思い、視線の置き場に困った。
これは浅野武樹と小山千恵子じゃないか?彼らがショッピングに来るなんて、しかも女性が支払うなんて?
噂は本当だったようだ、浅野武樹は本当に落ちぶれて、小山千恵子に養われているんだ……
浅野武樹は怒る様子もなく、むしろ上機嫌そうに、さらりと微笑んだ。「それなら、ありがたく甘えさせてもらおう」
すぐに、浅野武樹と小山千恵子が公の場でショッピングに来たという噂は、ショッピングモール中に広まった。
入口の目立たない場所に三々五々人が集まり、みな噂話をしていた。
「あの店員は私の友達なの、間違いないわ、小山千恵子が支払ったのよ!きっと落ちぶれたのね、お金持ちの人がわざわざ買い物に出てくるなんてないでしょ」
「まじで?本当に養っているの?前のチャリティーオークションで、浅野武樹はあんなに派手にピンクダイヤを落札したのに、女の金で見栄を張ってたの?」
「この二人の噂は絶えないけど、どれも本当の話じゃないみたい。もしかして彼らは本当に地道に暮らしている夫婦なの?」
「毎日トレンド入りする人には好感持てないわ……それに見て、二人の服装、ダサすぎ、ブランドも分からないわ、もしかしてファストファッションブランド?デザイナーがこんな服着るの?それなら私の方がマシね……」
浅野武樹は小山千恵子が店内を行き来し、真剣に彼の服を選んでいる様子を見て、ようやく気分が完全に台無しにならずに済んだ。
入口の騒ぎは、彼の耳にはすべて入っていた。
彼が養われているとか、ヒモだとか言われるのは、もう耳にタコができるほど聞いていたので、彼は全く気にしていなかった。
しかし小山千恵子を皮肉る言葉が二、三言あるだけで、彼の心に火をつけるには十分だった。
自分がどれだけ角が取れたとしても、小山千恵子に関することでは、まだまだ心が狭いようだ。
「浅野武樹、これを試着してみて?」
小山千恵子の声が中から聞こえてきて、浅野武樹の表情が変わり、優しく応えた。「今行くよ」
男は立ち上がり、最後に数文字を打ち込んで送信し、ポケットに手を入れ、長い足を踏み出して、店の奥へと向かった。