帰り道で、望月あかりは手首の腕輪を撫でながら、山田進に言った。「私たちが借りていた古いアパートに行きましょう。忘れ物があるの」
山田進は心が落ち着かず、彼女の言葉に従って団地へと向かった。
ここは長い間人が住んでいなかった。山田進が望月あかりの前で正体を明かしてから、もうここの管理をしていなかった。
古いアパートは埃がたまりやすく、家具には埃の層が覆っていた。山田進が玄関の棚の上に鍵を置いたとき、そこにはすでに鍵が置かれており、同じように埃に覆われていた。長い間そこに置かれていたようだった。
望月あかりのものだ、と山田進は不味いと思った。
望月あかりは埃を気にしなかった。以前は山田進が出張から帰ってくると、必ず部屋の掃除をしていた。
今考えると、彼女に掃除をしてもらう必要など全くなかった。家にいるメイドたちは、誰もが彼女よりプロフェッショナルだった。