望月あかりは帳簿を手に持って祝儀袋を記録しながら、やっと葉月しずくの言葉の意味が分かった。
祝儀袋の中には、普通の現金の他に、多くの商品券が入っていた。衣食住に関するものが含まれており、金額は千円程度のものが多かった。
しかし、一部のメンバーズカードはプライベート仕様で、千円は表向きの金額に過ぎず、カード自体の価値が高額だった。
その中には二つのマンションの住所と仲介人の電話番号、さらに二台の車も含まれていた。
これは...贈り物としては高価だし、かなり変わっているな。
望月あかりは、さらに奇妙なものを見つけた。赤い紙の祝儀袋に金色で「末永くお幸せに」と書かれており、中には現金ではなく一枚の名刺が入っていた。
斉藤玲人、横浜市高等裁判所副所長、電話:xxxxxx。
電話番号の欄には赤ペンで線が引かれ、その上に別の番号が手書きで書き加えられていた。字体は美しく、書いた人の教養の高さが伺えた。
望月あかりはこういった場に慣れていなかったため、この行為の意味をよく理解できなかったが、手元の赤い帳簿を確認しても斉藤玲人からの祝儀の記録はなく、この祝儀袋は人目を避けて入れられたものと思われ、消された電話番号は彼の個人番号かもしれなかった。
望月あかりは昼間の出会いを思い出した。斉藤玲人と握手した時、彼が彼女の手のひらを何度か撫でたような気がした。
その時は気のせいだと思っていたが、今考えると確かにそうだったのだろう。
この名刺には、明らかに別の意図が込められていた。
斉藤玲人は婚約者の目の前で彼女を誘惑し、しかも彼女の夫がすぐそばにいたのに。
彼は大胆すぎる。個人の電話番号を祝儀袋に忍ばせるなんて、山田進に見つかったらどうするつもり?
浴室から水音が止み、山田進の呼ぶ声が耳に届き、望月あかりの思考を中断させた。「あかり、背中を流してくれないか。」
望月あかりは名刺を祝儀袋に戻し、既に開封された祝儀袋の山に混ぜ込んで、浴室へ向かった。
入るなり山田進に抱きしめられ、彼は笑いながら言った。「妻よ、今日は記念すべき日だね。」
浴槽の水が音を立て、シャワーヘッドも開かれた。湯気の立ち込める中、すぐに望月あかりは山田進に心を奪われ、斉藤玲人の奇妙な名刺のことは忘れてしまった。