第109章「保護」

メッセージを送信したばかりのとき、耳元に林お母さんのヒステリックな声が響いた。望月あかりが立ち上がって探すと、山田進がベランダで彼女に背を向けてデッキチェアに座っているのが見えた。

ベランダのドアは半開きで、動画の音が大きくなければ、彼の存在に気付かなかっただろう。

彼はタブレットを手に持ち、動画を再生していた。カメラは林お母さんの顔を正面からとらえ、彼女の顔のたるみまではっきりと映っていた。

望月あかりがガラス戸を開けて近づくと、山田進は振り返って彼女に気付き、手を伸ばして彼女を隣に座らせた。

二人で一つのデッキチェアに座り、山田進は彼女から酒の匂いを嗅ぎ取り、眉をひそめて尋ねた。「絵を取りに行くだけじゃなかったの?どうして酒を飲んだの?」

望月あかりは首を振った。「友達と食事をしているとき、うっかりドレスにお酒をこぼしてしまったの。」

藤原信たち男子学生がビールを飲んでいて、盛り上がった時にグラスをぶつけ合い、うっかり彼女のドレスにこぼしてしまったため、酒の匂いをつけて帰ってきたのだった。

「何を見てるの?」望月あかりは尋ねた。

山田進はタブレットを望月あかりに渡した。画面では林お母さんの大きな顔が映し出され、タイトルには「地元の主婦が地方出身の女子大生を侮辱」と書かれていた。

望月あかりが再生すると、林お母さんの刺々しい声が不快に響き、動画作成者は意図的に緊迫感のあるBGMを付けていた。

「奥様の恨みを晴らす方法を考えていたところだ。心配しないで、私がいるから。」

林お母さんが望月あかりの名前を口にする部分は音声が消され、周りの学生たち、群衆の中にいた藤原恵里子も画像がぼかされていて、動画全体で林お母さんと林元紀だけがはっきりと映っていた。

あの鋭い「誘惑」という言葉に、望月あかりは身震いした。山田進は彼女を抱きしめ、腕をさすった。

「奥様の情報は消して、奥様が映っている部分はもっとぼかすように。向こうに言って、奥様の個人情報が漏れないようにしろ。」望月あかりが顔を上げると、山田進がBluetoothイヤホンをつけて電話をしているのに気付いた。

望月あかりはここで止めた。「もういいわ。私は被害を受けてないし、怒ってないから、これ以上やり過ぎないで。」

林元紀が彼女を助けてくれたことを考えると、彼の両親を困らせたくなかった。