第158章 逃亡者

望月紀夫が重用されているというニュースはすぐに望月あかりの耳に入った。紀夫が喜んで彼女と喜びを分かち合ったわけではなく、紀夫が電話をかけてきて彼女に尋ねたのだった。

国立大学ではまもなく卒業生を送り出すことになっており、優秀な卒業生は部隊に配属され、機密任務の遂行に協力することになっていた。これは将来の経歴にとって重要な功績となるはずだった。

一年生の新入生である望月紀夫は、今日指導教官に呼ばれ、夏休みも一緒に行くように通知された。

このような事は国立大学では「伝説」級の出来事で、紀夫が一生懸命努力しても達成できないことだったが、今や彼は優秀な成績を収め、同級生である将軍の息子と一緒に行くことになった。

さっき、彼らは友達にもなった。

紀夫はこの件が何か変だと直感し、あかりが病院にいた時、山田進が彼女に謝罪して補償すると言ったことを思い出し、そのためにあかりに電話をかけたのだった。

しかし、あかりは反論しなかった。

「姉さん、僕は行きたくない。自分の努力で上を目指したい。彼らの施しは受けたくないんだ」紀夫は不承不承で、姉の力を借りてのし上がりたくなかった。

「馬鹿なことを!私がこのチャンスのためにどれだけ犠牲を払ったか分かってるの?!」あかりは彼を叱りつけた。「言っておくわよ紀夫、あなたが出世することが、私の将来の頼みの綱なのよ!」

「姉さん?」紀夫は彼女の急激な態度の変化に驚いた。

「紀夫、あなたは山田ゆうとは違うのよ。あなたには頼れる家族がいない。私の前でプライドを語る資格なんてないわ!私たちが人に見下されていた日々を思い出して。山田進のあの女たちのことを思い出して。あなたにこのチャンスが与えられたのは、全て私が彼と彼の母親に我慢して得た見返りなのよ!」あかりは隠さなかった。あの日病院で山田進と対立した時、紀夫は何かを察していたはずだが、彼女の面子を考えて何も言わなかったのだ。

彼はもう大人なのだから、大人として考えるべきだった。

紀夫はあの日のことを思い出した。姉が事故で病院に運ばれたと知り、最初はボディーガードにVIP病棟への立ち入りを拒否され、その後も医者たちは彼を見向きもしなかった。

権力も地位もない者は、人に見下されるものなのだ。