横浜地方裁判所では、今日、尊い来客を迎えた。斉藤玲人が学習ノートを閉じると、外の秘書がドアをノックして入ってきた。
秘書と一緒に、スーツ姿の山田進が入ってきた。その後ろには弁護士が付いていた。
「斉藤院長、山田さんが法的支援を必要としています。院長、どうぞ全面的にご協力ください」秘書は恭しく言った。ここでいう院長とは、もちろん斉藤玲人の上司のことだ。
斉藤玲人は頷き、眼鏡をかけて「山田さん、どうぞお座りください」と言った。
秘書は三人にお茶を注いでから、退室した。
「山田さん、何かお手伝いできることはありますか?」斉藤玲人は丁寧に尋ねながら、手元にある黒い携帯電話を慌てることなく、鍵のある引き出しにしまった。
その中には彼とフランスで撮った望月あかりとの写真があった。先ほど少し疲れていたので、取り出して見ていたのだ。
山田進は何も言わなかったが、後ろの弁護士が書類の束を斉藤玲人の机の上に置いて言った。「斉藤院長、これは匠工房の不動産資格書類です。依頼人を代理して、匠工房のオフィス所有権について、お話させていただきたいのですが」
斉藤玲人は書類を見なかった。匠工房のビルは彼とは全く関係がない。山田進が今日弁護士を連れてきたということは、おそらく何か有用な情報を得たのだろう。
引き出しに入れた携帯電話が一度振動した。斉藤玲人は「失礼します」と微笑んで言った。
携帯電話を取り出し、山田進の前で望月あかりからのメッセージを確認すると、斉藤玲人は心の中で見当がついた。
望月あかりは藤原信と匠工房の手続きを済ませ、匠工房は今後藤原信のものとなり、望月あかりは収益だけを得ることになった。
斉藤玲人は平然と携帯電話を戻し、「匠工房は奥様のビジネスですね。山田さんもご存じの通り、私は幼い頃に奥様のお母様に命を救っていただいた恩があります。今回、奥様のオフィス探しをお手伝いしたのは、全くの恩返しのつもりでした」と言った。
彼は公務員なので、ビジネス界の人々と深く関わることはできない。そのため、斉藤玲人はすぐに客を追い払おうとした。
「申し訳ありませんが、山田さんのお力にはなれません」
しかし山田進は何も言わず、弁護士が机の上の書類を広げ、斉藤玲人に目を通すよう促した。「斉藤院長、書類をよくご覧になってください。山田さんのお考えを誤解されているようです」