第163章 惑わす_2

山田進は頷き、慎重な様子を見せた。

「緑の帽子が見え隠れしているのに、まるで何事もないかのように我慢し続けるなんて、山田坊ちゃまは本当に並外れた人物だわ」望月あかりは冷笑いながら、彼の寛容さに感心するふりをした。

その言葉には偏りがあった。彼女と斉藤玲人の間には何も証拠を掴まれていなかったが、彼女は敢えて彼の心に針を刺そうとした。かつての若葉加奈子のように。

若葉加奈子のことは過去のものとなるだろうが、斉藤玲人のことは違う。

離婚しないなら耐え忍ぶしかない。そして彼女は時々その針を動かし、彼に痛みを忘れさせないようにするつもりだった。

「あかり、何を言っているんだ?!君がそんなことをするはずがないと分かっている。僕は君を疑っているわけじゃない。ただ斉藤玲人に騙されることを心配しているんだ」もう話が出たからには、山田進も遠慮なく言った。「斉藤玲人は良い人間じゃない。木村清香と土井くんの件に自ら関わり、それと引き換えに自分の明るい未来を手に入れようとしている。君は彼に近づきすぎてはいけない。あの野犬は君にまとわりついて離れないぞ」

鈴木お父さんと自分の父は深い付き合いがあり、望月あかりは自分の妻だ。いずれ望月あかりは斉藤玲人に利用されるに違いない。

「あかり、僕を信じてくれ。斉藤玲人は良い人間じゃない。鈴木明子を自殺未遂に追い込んだように、今度は君に牙を向けることだってある」今日の重要なポイントは斉藤玲人にあった。彼は望月あかりが斉藤玲人に惑わされていると感じていた。

「あかり、斉藤玲人のような人間は人の気持ちを読み取り、心を惑わすのが上手い。普通の人は彼の相手にはならない」

その言葉は正しかった。年末年始を一緒に過ごした数日間、彼は数言で自分に既婚者であることを忘れさせた。あんなに甘ったるい言葉なのに、彼が言うと心地よく聞こえた。

「あかり、僕たちには家庭がある。これらのことを全て水に流そう。斉藤玲人から離れて、もう一度やり直そう。これからは君の言うことを何でも聞くから」山田進は情に訴え理を尽くして、彼女に家庭に戻るよう説得した。

斉藤玲人は彼女を鈴木明子のように心酔させようとしていた。もし望月あかりが斉藤玲人に下心があることを知らなかったら、きっと彼女も魂を奪われていただろう。