第175章 元夫

山田進は夢にも思わなかった。勇気を出して画展に望月あかりを探しに来たのに、聞こえてきたのは彼女と他人との噂話だった。

彼らは何を言っているんだ!彼女は俺の妻なんだ!ライアンとなんの関係もない!

しかし、タブレットで彼女のインタビュー生中継を見て、彼女とライアンが目を合わせた瞬間、山田進は不安になり、銀行との面会も気にせず、直接大学へ彼女を探しに来た。

法的に二人は離婚しているが、それは関係がないということではない。二人には子供がいるのだ。

望月あかりは家族を何より大切にする。子供は二人が仲直りするきっかけになるはずだ。

……

山田進は大学のキャンパスを探し回ったが、学生ばかりで望月あかりの姿は見えなかった。今日は大学に観光客が多く、誰もがこの華人女性画家について話していた。

彼女は元々国内の一流大学の油絵科の学生で、貧しい家庭の出身で、絵を売って生計を立てていた。ある日偶然ライアンに見出され、修士から博士まで支援を受け、今日の成功を収めるまでに育てられた。

ライアンは彼女を熱心に育て、仲介役となり、望月あかりをヨーロッパの古い名家の肖像画の制作に紹介し、芸術界で頭角を現すきっかけを作った。

この数年間、彼女の収入はすべてライアン傘下のレオグループからのもので、今年の『奔走』という作品で一気に名を上げた。

この成功物語の中で、斉藤玲人と山田進は消し去られていた。

望月あかりは結婚もしておらず、彼氏もいない。

「さっきその画家を見かけたよ。想像以上に若くて、美人だったね」通りがかりの学生が話していた。「隣にいたのがレオの後継者で、かっこよかった。二人並ぶとお似合いだったよ」

山田進は望月あかりの名前を聞いて、すぐに追いかけて尋ねた。「すみません、今の画家はどちらにいましたか?」

学生たちは親切に方向を教えてくれ、山田進は礼を言って、その方向へ足早に向かった。

「あの人は誰?」一人が尋ねた。「華人だけど、知り合いかな?」

さっきの表情からすると、急用があって人を探しているというより、不倫相手を追いかけているみたいだった。

「でも、華人の中ではかなりイケメンだよね」別の女子学生が言った。華人男性であれだけ背が高いのは珍しく、年齢も三十歳くらいで、姿勢が良く清潔感のある顔立ちだった。