藤田深志は携帯を手に取り、一瞬固まった。
「彼女が産婦人科に行ったのは何のため?」
向こう側の人は先ほど柏木秘書から命令を受け、密かに奥様の後をつけていた。社長が彼女の行動を把握できるようにするためだ。
柏木正は恋愛を経験して分かったことがある。自分の社長はただのツンデレで、離婚したくないのに逃げ出して、認めようともせず、一日に何百回も奥様が家で何をしているのか聞いてくる。
彼は報告しやすいように、奥様の動向を観察させていた。京都府の方で手配した人が鈴木之恵が診察室に入るのを見たが、中での状況は分からなかった。電話で社長の機嫌が良くないのが分かり、彼は緊張しながら答えた。
「藤田社長、奥様もしかして妊娠されたのでは?」
藤田深志は何も言わず、電話を切って柏木正に帰りの航空券を買わせた。