第39章 鈴木之恵様への19輪の白いバラ

藤田深志は電話を切り、腕の中の彼女を横目で見つめ、最後には腰に巻き付いた手を振り払った。

「借りができたな」

彼はベッドから立ち上がり、手際よく服を着始めた。

その四文字の言葉で、鈴木之恵は再び現実に引き戻された。彼女は何を期待していたのだろう?彼が自分のために秋山奈緒を断るなんて、贅沢な望みを抱いていた。

現実は再び彼女に痛烈な一撃を与えた。

秋山奈緒が必要とする時はいつでも、彼は彼女のもとへ駆けつける。たった今のように一触即発の状況でさえも、すぐに引き下がってしまう。

鈴木之恵は自分を憎んだ。いったい何度傷つけられれば諦められるのだろう。

彼女の愛は塵のように低く、彼からの一度の大切にされることさえ得られない。

藤田深志は素早く身支度を整え、出る前に振り返って一瞥した。

「之恵、ドアの鍵をかけておけよ」

ドアが閉まる音が響き、鈴木之恵は鼻をすすり、涙が一粒また一粒と転がり落ち、止まることを知らなかった。

彼が二度と戻ってこないことを、彼女は知っていた。今の自分の惨めな姿は、ドラマの中の寵愛を受けない妃のようだった。

彼女はいつも彼が秋山奈緒のもとへ向かう背中を見送っている。

勇気を出して、引き止めようとしても、一度も応えてもらえなかった。

もうこれでいいわ、藤田深志。

離婚届を出したら、二度と連絡を取らないで。

時が経ち三日が過ぎ、鈴木之恵は定時に出勤退勤を続けた。秋山奈緒がいない日々、誰も彼女に仕事を割り当てることはなく、勤務時間中は自分のデザインに取り組んでいた。

昼食時に藤田深志のオフィスで食事を取る以外は、煩わしいことは何もなかった。

この日の昼、社長室から戻ってきた彼女は、ちょうど出勤してきた秋山奈緒とばったり出くわした。

秋山奈緒は完璧なメイクで、きちんとしたスーツワンピースを着こなし、大きな波のような髪が肩で自由に広がっていた。鈴木之恵を見た瞬間、挑発的な眼差しを向けてきた。

大病から回復したばかりの弱々しさはなく、むしろ意気揚々としていた。

もし間違いなければ、三日前は死にそうなほど病気だったはずなのに、こんなに早く回復したの?

鈴木之恵は彼女の様子を何気なく観察したが、病気を患った形跡は全く見当たらなかった。