鈴木之恵は「あ」と声を上げた。「どうして会社であなたにお会いしたことがないのでしょうか?」
そう聞いてから余計な質問だと気づいた。彼は藤田グループの幹部に違いない。彼女のような一般社員が気軽に会えるような存在ではないのだ。
藤田晋司は微笑み、赤信号で止まっている間、横目で彼女を見て、
「君は私を見たことがないかもしれないが、私は君を見たことがあるよ」
鈴木之恵は落ち着かない様子で手を握りしめ、「私は目が悪くて...次回お会いした時は直接声をかけてください」
藤田晋司はうんと答えただけで、この話題を続けなかった。
車は市の中心部に到着し、一見レストランには見えない建物の前で停まった。
鈴木之恵は車を降り、彼について中に入ると、そこには別世界が広がっていた。
レストランは個人経営の料理店で、とても雰囲気の良い内装だった。店内には客が少なく、穏やかな音楽が流れていた。