第42章 美味しいものを食べに連れて行く

「奈緒、私は嘘をつかれるのが嫌いだということを知っているでしょう。今日は誕生日だから大目に見るけど、これからはこういうことはしないで。私は約束通り、けじめをつけるつもりだから」

秋山奈緒は一瞬動揺した。彼女の心の中には一つの答えがあった。彼の言う「けじめ」とは、藤田お爺さんが言っていたように、大金を渡して関係を清算し、それぞれの道を行くということなのだろうか。できれば二度と会わないことも含めて?

そうなら、彼女のこれまでの努力は何だったのだろう?

「深志さん、私は本当にあなたを騙してここに来させようとしたわけじゃないの。ただ単純に、誕生日ケーキを一緒に食べてほしかっただけ。みんなが熱心についてきただけなの。私たちの恋人関係を、わざと皆の前で暴露しようとしたわけじゃない。今日は偶然だっただけ」

彼女は責任を部署の同僚に押し付け、自分が彼を騙して呼び出したことについては一言も触れなかった。

藤田深志は彼女が言った「恋人」という言葉を聞いて、眉間にしわを寄せた。以前は彼もこの関係を黙認していたが、今聞くと何か耳障りに感じた。

その時、エレベーターが到着した。

藤田深志は中に入って1階のボタンを押した。エレベーターのドアがゆっくりと閉まり、話し合いの途中の二人を別々の世界に隔てた。

――

鈴木之恵はハイアットを出るとすぐに会社へ向かった。母の形見を取り戻すことが急務で、一刻も無駄にしたくなかった。あのネックレスを探し続けてきた時間の長さは、神のみぞ知る。

夜は静かだった。

藤田グループの社員はほとんど帰宅しており、ビルの何階かで星のような灯りがちらほら点いているだけだった。

鈴木之恵はデザイン部の扉を開け、携帯のライトを使って照明のスイッチを探した。彼女は夜盲症があり、夜は物がよく見えない。幸い携帯の電池がまだ少し残っていた。

オフィスに明かりが灯り、その光は少しまぶしかった。彼女は少し目を慣らしてから直接秋山奈緒のデスクに向かい、引き出しを開けた。

赤いベルベットのジュエリーボックスが目立つ場所に置かれていた。

ジュエリーボックスを手に取り、鈴木之恵は興奮を抑えきれなかった。ついにこのネックレスを見つけることができた。母への約束も果たせる。

彼女はその小さな箱を手のひらに載せ、母の面影を思い出すと、また目が潤んでしまった。