第56章 藤田グループの奥様

鈴木之恵は軽く笑って、「大丈夫です」と言った。

彼女は落ち着いてブラックカードを取り出した。このカードはバッグの中に入れたままで、今日が初めての使用だった。

ピッという音と共に、決済が完了した。

秋山奈緒は鈴木之恵の手にあるカードを見つめ、その目は刃物のように鋭く、彼女とカードを一緒に切り刻みたいかのようだった。

そのカードは先日まで藤田深志が買い物に使っているのを見かけたのに、数日で鈴木之恵の手に渡っていた。二人は離婚協議書にサインしたのに、なぜあの女にカードを渡して好き勝手に使わせているの？

前回、藤田深志が玉竜湾で酔って一夜を過ごした後、彼は説明すると約束したのに、今まで何の行動も起こさず、むしろ自分が些細なミスをしただけで、鈴木之恵の味方をして自分を厳しく叱りつけた。

離婚にこんなに時間がかかるの！

秋山奈緒は考えれば考えるほど腹が立った。もしかしたら本当にあの女に心を奪われたの？山田結城が言っていた、鈴木之恵が妊娠している可能性があるという話を思い出した。今では心臓の鼓動も不安定になっていた。あの女、本当に妊娠しているんじゃないの？

彼女は敵意のある目つきで鈴木之恵のお腹をスキャンし、心の中で疑問を抱いた。

販売員はドレスを包装し、きれいなリボンを付けて彼女に手渡した。

「何を考えているの？行きましょう」

藤田晴香は秋山奈緒の腕を取って店を出た。今では鈴木之恵から離れたくてたまらなかった。彼女を辱めようとしたのに、逆に彼女に見下されてしまった。

「晴香、鈴木之恵のお腹、いつもより大きく見えない？」

藤田晴香は鈍感で、そんな細かいことには気が付かない。策略では秋山奈緒に遠く及ばず、口先だけの人だった。

「太っただけじゃない？ドレスを試着した時、服がパンパンだったの見なかった？」

「妊娠してるんじゃない？」

藤田晴香は皮肉っぽく笑って言った。

「妊娠なんてあり得ないわ。兄と結婚して3年も経つのよ。妊娠するなら、とっくにしてるはず。3年も何の動きもないってことは、兄が彼女に触れたくないんでしょ。もしかしたら今でもCかもね」

秋山奈緒はまだ心が落ち着かず、機会を見つけて試してみる必要があると感じた。

二人が店を出た後、鈴木之恵と八木修二はさらに数分店内に留まった。