その夜は藤田グループが主催するチャリティーディナーだった。
鈴木之恵は自分のコレクションが藤田深志に持ち去られてしまったのではないかと不安を感じていた。あの乱暴な男が丁寧に扱ってくれたのだろうか。大きな袋に全部ごちゃごちゃと詰め込んでしまったのではないだろうか?
考えれば考えるほど心配になった。
八木修二は鈴木之恵がドレスを買っただけでは不十分で、ヘアメイクも必要だと考えた。
彼女を人気のヘアサロンに無理やり連れて行き、数時間かけて仕上げた。八木修二は満足そうだったが、鈴木之恵には以前と変わった感じがしなかった。入店時はお団子ヘアで、出てきた時もお団子ヘア。ただ、自分で結うよりも自然な感じで、上にパールのアクセサリーを付けただけだった。
二人は昼食を適当に済ませ、鈴木之恵は見知らぬ番号から電話を受けた。
「鈴木之恵様でしょうか?」
相手は落ち着いた男性の声で彼女の名前を呼んだ。
鈴木之恵は答えた:「はい。」
「鈴木様、こちらは工商銀行でございます。5000万円の信託が満期を迎えまして、あなたが受益者となっております。元本を引き出されますか、それとも継続して投資されますか?」
鈴木之恵は一瞬戸惑った。「信託を購入した覚えがないのですが、委託者の名前を教えていただけますか?」
「鈴木美波様です。」
鈴木之恵は胸が痛んだ。母が自分のために信託を購入していたことを知らなかった。おそらく秋山泰成という人物が信用できないことを知っていて、娘のために保障を残しておいたのだろう。
彼女は声を詰まらせながら言った。「元本を引き出します。」
秋山泰成の会社は先日破産寸前だったが、どこかの有力者から投資を受けて何とか持ちこたえた。
その会社は鈴木美波の婚前財産で立ち上げたものだったが、秋山泰成は最初の成功を収めた時、妻への感謝どころか、外で秋山奈緒の母親を愛人として囲い、秋山奈緒を生んだ。
鈴木之恵はこの仕打ちを許せなかった。母の死には不可解な点があり、それなのに秋山泰成は愛人母子を母が買った家に住まわせ、優雅な生活を送っていた。
彼女は何かしなければならなかった。
今この資金を手に入れて、心に自信が湧いてきた。
株式取引アプリを開き、秋山泰成の会社、秋山実業の株価を確認すると、一株11円だった。鈴木之恵は口元に笑みを浮かべた。