第70章 彼女は妊娠しない

鈴木之恵は心臓が激しく鼓動し、自分の心臓の音が聞こえるほどだった。

「やめて、おじいちゃんが外にいるわ」

彼女はおじいちゃんを持ち出して彼を抑えようとした。

藤田深志は軽く笑って言った。「おじいちゃんはもう帰ったよ。信じるかどうかは別として、ドア外にいないどころか、他人が上がってくるのも禁止しているはずだ」

「手伝ってくれるの？手伝ってくれないなら、お母さんに頼むわ」

「義理の母さんを他人とも思わないんだな。この体中の痕跡を見せるつもりか？」

藤田深志の一言で彼女の退路は完全に断たれた。

彼はジッパーを上下に動かし、中に挟まった布を取り除くと、ジッパーはスムーズに上まで上がった。

鈴木之恵はほっと息をついた。「ありがとう」

藤田深志は彼女を向き合わせ、

「お礼をするなら誠意を見せてくれ。主寝室に戻って寝ろ。もうこんな駄々を捏ねるな。一人で眠れるのか？」

彼は心の中で不満を漏らした。この無神経な女は、引っ越すと言えば引っ越す。三年間彼に抱かれて眠ってきたのに、突然一人になって慣れるはずがない。彼も夜中に寝返りを打って、腕の中が空っぽなのに慣れない。

以前は暗闇が怖い、雨や雷が怖いと言っていたのに、今はどうだ。何も怖がらなくなった。

気取りすぎるときはきりがなく、冷たくなるときは本当に冷たい。

「駄々を捏ねているわけじゃない。本気よ。三年間もう十分でしょう。あなたの地位や身分なら、どんな女性でも手に入るはず。それに秋山奈緒も戻ってきたわ。お互い円満に別れましょう。みんなが不愉快になるようなことはしたくないわ」

藤田深志の心は凍りついた。無意識にポケットをまさぐってタバコを探そうとした。数秒間の間を置いて、目の前の女性を呆然と見つめた。彼女は冷静で落ち着いていて、冗談を言っている様子は微塵もない。

「本当に俺から離れたいのか、それとも次の相手を見つけたのか？」

鈴木之恵は肝が痛むほど怒った。彼のことを骨の髄まで愛していて、裏切ることなど一度も考えたことがなかった。初恋の人で、彼女の世界を輝かせた人だった。

心の底まで傷つけられなければ、こんなにも必死に彼から離れようとはしなかったはずだ。

「藤田深志、私はあなたを裏切るようなことは一度もしていないし、考えたこともない」