エレベーターを出て少し歩くと社長室があった。
この階には社長室の他に大会議室があるだけで、会議がない時は階全体が静まり返っていた。
鈴木之恵は社長室のドアをノックし、「どうぞ」という声を聞いて中に入った。
藤田深志は机に向かって仕事をしており、彼のオフィスには柏木秘書の他に、彼女の入社手続きを担当した人事部の川内マネージャーがソファに座っていた。
「鈴木之恵さん、この昇給契約書に改めてサインをお願いします。」
川内マネージャーが契約書を差し出した。
鈴木之恵は疑問に思いながら受け取り、最初から最後まで目を通し、給与額のところで目が止まった。
川内マネージャーは笑顔で説明した。「グループのデザイン部門の評価で一位になると給与が倍になるのが慣例なんです。おめでとうございます、鈴木さん!」