「今日は残業なし、今から帰るわ」
彼は顔を下げて再び彼女の唇にキスをし、蹂躙された赤い唇を見つめながら、ますます中毒になっていくのを感じた。
鈴木之恵は彼の誘いに頬を赤らめた。
藤田深志はようやく彼女から離れ、自分の席に戻って携帯を取り、電話をかけた。
「柏木、上がってきてくれ。車のキーを持ってな」
ドアの外で、柏木正は左右を見回して、気まずそうに答えた。
「社長、私は上にいます」
柏木の声がドアの外から聞こえ、電話を使わなくても聞こえた。
鈴木之恵が振り返ると、外で待っている人々を見て、雷に打たれたような気分になった。
柏木秘書、書類を持った川内マネージャー、そして大野社長の三人が近くに立っており、何か大きなゴシップを聞いたような表情をしていた。
先ほどオフィスで起こったことは、間違いなく彼らに見られていた。