陸田直木の悲しそうな表情を見て、藤田深志は拳を振り上げるのを止めた。
数言葉を交わしている間に、藤田晴香が早足で追いかけてきて、実の兄が険しい顔をしているのを見た。彼女は三人の間で視線を巡らせ、直前に三人が何を話していたのか分からなかったが、なんとなく雰囲気が良くないと感じた。
「お兄ちゃん、来たの?」
藤田晴香は藤田深志にだけ挨拶をした。いわゆる義姉なんて相手にしたくなかった。
藤田深志は「うん」と答え、尊大な口調で注意した。
「お義姉さんもいるのに気付かないのか?挨拶しないの?」
藤田晴香は焦って本音を漏らしそうになった。「私なんて……」
しばらく間を置いて、不本意ながら口から二文字を絞り出した。「お義姉さん」
藤田深志の強張った表情がようやく少し緩んだ。
藤田晴香は挨拶を済ませると、目を陸田直木に釘付けにした。