第104章 赤ちゃんを宿すのは大変でしょう?

藤田深志が出かけると、秋山奈緒と藤田晴香も一緒についていった。

「この馬は昇雲といって、気性が荒いんだ。乗りたいなら晴香に温厚な馬を紹介してもらうといい」

藤田深志は鈴木之恵が餌をやっている馬を指さして説明した。

この馬たちの中で彼が知っているのはその一頭だけだった。村上拓哉が高額で買い戻してきたものの、一周乗っただけで足を骨折して三ヶ月寝込み、怒りのあまり馬肉にして食べようとしたほどだった。

藤田深志はその馬を気に入った。額の真ん中に白い毛が生えていて、ハートの形をしていたので、彼はそれを引き取り、自分の牧場で専門のトレーナーに訓練させることにした。

藤田晴香はここに慣れていて、どの馬が気性の荒い馬かよく知っていた。彼女は馬小屋を見回し、すぐに全身が茶色い毛で黒い尾を持つ馬を見つけて言った。

「お兄ちゃん、あの茶色い黒毛の馬が義姉さんに合うと思う」

秋山奈緒は横で静かに彼らの会話を聞いていた。彼女は藤田深志と藤田晴香の会話を心の中で繰り返し考えていた。鈴木之恵は妊娠しているのに、まだ晴香に馬を紹介させようとしている。もしかして彼はまだ鈴木之恵の妊娠のことを知らないのだろうか?

鈴木之恵は黙り込んで、「乗りたくありません」と答えた。

今の彼女には馬に乗る勇気などなかった。命が惜しいのだ。

藤田深志は彼女が純粋に怖がっているだけだと思い、横で励ました。

「怖がることはない。専門のトレーナーがいるから、一緒に一周走ってもらえる」

秋山奈緒は横で冷ややかに笑った。藤田深志の先ほどの言葉で、鈴木之恵の妊娠のことはまだ誰も知らないと確信できた。

自分が鈴木之恵の妊娠を知った時は大変なことだと思ったが、あの女は彼の中でそれほどの存在でもないのだ。妊娠さえも言えないなんて。

秋山奈緒は全身がリラックスした。彼女は自分が以前は鈴木之恵を大げさに考えすぎていたと感じた。自分と競争するには彼女は力不足だ。

彼女は一歩前に出て、馬小屋の外から中を覗き込んだ。

「せっかく来たんだから、みんなで一頭ずつ選んで何周か走ってみましょう。晴香が育てた馬が速いかどうか試してみましょう」

藤田晴香は横で賛同した。

「奈緒さん、あの赤い馬に乗って。私は白い馬に乗るから、茶色い馬は義姉さんに」

そう言って残りの二人の男性を振り返った。