鈴木之恵は庭から摘んできたキュウリ、トマト、それに小松菜を台所に持って行き、部屋に戻って荷物をまとめながら、心の中でずっと考えていた。退職がそんなに面倒なものなのだろうか?
彼女は荷物をまとめ終わり、お爺さんに別れを告げに行った。
階下に降りると、リビングでお爺さんと誰かが話をしていた。痩せた体つきで、穏やかで優雅な声。叔父さん以外の誰でもなかった。
「叔父さん、来てたの?」
鈴木之恵は礼儀正しく挨拶をし、本題に入った。
「お爺さん、京都府に戻らなければならないので、しばらくお側にいられません。忙しい時期が過ぎたらまた戻ってきます。」
藤田お爺さんは目を細めて、心の中で思った。あの馬鹿息子が自分の言葉を聞き入れたようだ。まだ教育の余地があるということだ。自分の心配も無駄ではなかった。
「自分の用事を済ませなさい。私には今村さんがいるから心配いらない。若い者は若い者らしい生活をすべきだ。この老いぼれの側にいて何になる?」
「あら、お爺さん、私が煩わしくなったの?」
お爺さんは額を撫でながら、心の中で思った。どうして大人の女性も皆こういう質問をするのだろう。亡き妻が一生言い続けた言葉だ。もう長いこと誰からもこんな質問を受けていなかった。
「煩わしくなんかないよ。早く帰りなさい。荷物をまとめたら運転手に送らせる。次は私に曾孫を連れてきてくれるといいな。」
鈴木之恵は冗談を言われて顔を赤らめた。
傍らで藤田晋司は黙って聞いていたが、腕時計を見て、
「もうすぐ食事の時間だ。昼食を済ませてから出発したらどうだろう?高速道路を飛ばしても京都府まで4時間近くかかる。食事をせずに出発すれば、途中でお腹が空いてしまうだろう。」
お爺さんはお腹が空くという話を聞いて、すぐに意見を変えた。「そうだな、食事をしてから出発しなさい。急ぐことはない。」
孫の嫁にお腹を空かせるわけにはいかない。この子はもともと痩せているのだから、この小さな体をしっかり養わないで、どうやって曾孫を産んでくれるというのか?
藤田晋司は口元を押さえて咳をし、
「ちょうど私も午後に出発するので、一緒に行きましょう。」
こうしてことは決まり、鈴木之恵は素直に従った。
お爺さんは部屋に休みに戻り、リビングには鈴木之恵と藤田晋司の二人が残された。