第121章 玉竜湾の家を売る

藤田深志は祖父に酷く叱られ、祖父は皆の前で今村執事に玉竜湾のマンションを売りに出すよう直接指示した。縁起の悪いものは置いておけないと。

藤田晋司の方はすでにスムーズに友人からマンションの間取り図を入手していた。

祖父は藤田晋司が渡してきた図面を見て、やっと眉間の皺が緩んだ。

藤田深志の眉から血が出ていたが、今回祖父が一日正座させなかったのは軽い方だった。

鈴木之恵は祖父の怒りが少し収まったのを見て、藤田深志を部屋に連れて行き、救急箱を持ってきて手当てをした。

ピンセットで綿球を傷口に当てると、藤田深志は思わず「痛っ」と声を上げ、やっと痛みを実感した。

「お前は初めて祖父に会ったわけじゃないのに、なぜこんな時に水を差し出すんだ。果物ナイフでも渡せば、今頃未亡人になっていたところだ」

鈴木之恵は彼の言葉を無視し、綿球で傷口周りの血を拭き取り、消毒して薬を塗り続けた。

「今は暑いから、シャワーや洗髪の時は水が付かないように気を付けて。感染症になったら大変よ」

「今朝、玉竜湾の下の階の住人から電話があって、今はビル全体が嫌がらせを受けているそうだ」

藤田深志は独り言のように言い、突然顔を上げて鈴木之恵を見つめ、数秒後に尋ねた。

「下の階の住人は、どうやって私の電話番号を知ったんだ?」

鈴木之恵の手が一瞬止まったが、すぐに落ち着きを取り戻し、薬を塗り終えて、絆創膏を二枚貼った。

「わからないわ。たぶん秋山奈緒が教えたんじゃない?」

「そうかな?」

「さあ、誰にもわからないわ」

鈴木之恵はこの件を認めるつもりはなかった。どちらにしても、彼女が暇つぶしに下の階の住人に電話をかけて、どうやって電話番号を知ったのか聞くようなことはしない。彼が信じようと信じまいと勝手だった。

昼食を済ませると、別荘のメイドたちはまた忙しく動き始めた。昨日準備すべきものを今日また一から準備する。

スイーツ、フルーツ、水、飲み物、それに獲れたての海鮮類。

鈴木之恵は今村執事が人々に箱を次々と車に運ばせるのを見ながら、実は彼女はこれらの食べ物のほとんどが食べられず、特にスイーツは触れることさえできないと言いたかった。