「そうじゃないの?」
彼女は今でも覚えている。一度ひどく疲れ果てて、翌日はベッドから起き上がれなかった時のことを。その夜、彼は残業していて、最新のエルメスのバッグを人に届けさせた。カードには「お疲れ様、これは補償です」と書かれていた。
これは売春の代金以外の何物でもない。
普通の夫婦なら、誰がこんなに細かく計算して、補償までする必要があるだろうか?
藤田深志は彼女と今は話が通じないと感じた。プレゼントを贈ったのに間違えたのか。自分でお金を使って面倒を買ったのか?
恩知らずだ。
「要らないなら捨てればいい!」
鈴木之恵は彼の豪語に驚いた。収納室に置いてあるバッグの数は言うまでもなく、寝室のクローゼットにあるものだけでも8桁の価値があるのに、彼は捨てろと言う。
彼女の心の中に突然、金持ちへの憎しみが湧き上がった。彼女はSWANにデザイン画を提供して、年間数百万円しか稼いでいない。そのお金のほとんどは株式投資に回し、手元に残る小遣いはそれほど多くない。鈴木之恵は自分には物欲がないと常々思っていた。ジュエリーを買う以外に、興味を引くものはなかった。