鈴木之恵は微笑んで、
「私が彼を隠すわけないでしょう。電話すれば見つかるはずよ」
村上拓哉は手の中の携帯電話を振りながら、
「電話を切られたんだ。あいつ、機嫌が悪い時しかこんなことしないんだけど、最近ビジネスで損失でも出たのかな?」
鈴木之恵は肩をすくめて、「わからないわ」
村上拓哉は携帯電話をしまい、
「お嫂さん、楽しんでて。僕は彼を探してくる」
鈴木之恵は頷いて、「行ってらっしゃい」
鈴木之恵が糖分の少ない果物を取ろうとしたところ、時田言美が近づいてきた。
「之恵さん、なぜここにいるの?あっちでゲームをやってるわ、早く来て」
時田言美は熱心に鈴木之恵を人混みの中へ引っ張っていった。皆が社長夫人が来たのを見て、すぐにセンターポジションを空けた。
司会者は鈴木之恵の参加を見て、彼女に番号カードを渡しながら注意した。
「なくさないでください。後でゲームで使います」
藤田晴香も群衆の中にいて、彼女の隣には興味なさそうな陸田直木が立っていた。
陸田直木は鈴木之恵を見つけると、藤田晴香を置いて群衆の中を押し分けて来た。
「鈴木さん、来られたんですね?」
鈴木之恵は頷いて微笑んだ。
陸田直木:「ここは退屈ですね。静かな場所で一杯どうですか?」
鈴木之恵は唇を少し曲げて、「申し訳ありませんが、お酒は遠慮させていただきます」
陸田直木は諦めずに尋ねた。「では、ソフトドリンクはどうですか?」
鈴木之恵は困った表情を見せた。ソフトドリンクも飲めない、糖分が多すぎる。断り方を考えていると、藤田晴香が興奮した様子で近づいてきて、陸田直木の腕に手を回し、所有権を主張するような態度を見せた。
「礼儀を知らないの?彼は私の婚約者よ。こんなに大勢の前で誘惑するなんて」
陸田直木は恥ずかしく思い、冷たく腕の手を振り払った。
「藤田お嬢様、自重してください。藤田お爺さんと話し合う時間を作りましょう。私たち二人は合いません」
藤田晴香は公の場で婚約を拒否され、面目を失った。
彼女は最初、鈴木之恵に文句を言おうと思っていたが、自分の婚約者が全く顔を立ててくれず、公衆の面前で立場を失わせられるとは思わなかった。これからどうやって藤田グループの社員の前で生きていけばいいの?あの打算的な令嬢たちの社交界でどう立ち回ればいいの?
「あなた、クズ男!」