第134章 コンドームを持ってきた?

乗客が次々と到着し、クルーズ船のスタッフは午後ずっと忙しく働いていた。精巧な料理、シーフード、ワインやシャンパン、フルーツやデザートが全て準備され、部屋も整えられていた。

皆は自分の部屋番号を手に興奮しながら乗船し、まずは荷物を運び込もうとしていた。

藤田深志の豪華スイートは最上階にあり、二人の荷物は一つのスーツケースにまとめられ、柏木正が先導して上階へと運んでいった。

藤田深志は巨大な贈り物の箱を持って、鈴木之恵と共に後ろについて行った。

「之恵、荷物を整理する時にコンドームは持ってきた?」

鈴木之恵は胸がドキッとした。この男は昼間からなんを考えているのか?常にそういうことばかり考えて、自分の秘書に笑われることも気にしないのか。

前を歩く柏木正のことを考慮して、小声で答えた。「持ってきてない」

藤田深志は自分の秘書を全く人とも思っていないかのように、空気のように扱い、さらに尋ねた。

「なぜ持ってこなかったの?したくないの?」

鈴木之恵は彼の口を塞ぎたかった。「それは後で話しましょう」

藤田深志は彼女の真っ赤な耳を横目で見て、思わず口角が上がった。

柏木正は前を歩きながら背中が針で刺されるような気分だった。幸い、彼は口が堅い。先ほどのような会話を何度も聞いてきたが、もしその一部でもグループチャットで話したら、チャットは爆発するだろう。

自分の社長があんなに焦っている様子を見て、普段会社では冷たく禁欲的な顔をしているのに、社員は彼が怒鳴るところしか見たことがない。誰が奥様の前であんなに欲求不満な情けない姿になるとは想像できただろうか。彼のクールな社長というイメージは崩壊寸前だった。

柏木正は荷物を部屋に置くとすぐに立ち去った。見てはいけないものを見てしまうのを恐れて、好奇心は猫を殺すというが、彼は社長に口封じされたくなかった。彼の婚約者が部屋で待っているのだから。

部屋の中で、鈴木之恵は藤田深志から距離を置こうとした。先ほどの話題を蒸し返されるのが怖かったから。

しかし、恐れていたことが現実となった。

藤田深志は床のスーツケースを開けて探し回り、がっかりした表情で、

「本当に持ってきてないの?」

柏木正がいたから言いづらかっただけだと思っていたが、スーツケースを隅々まで探しても本当に見つからなかった。