藤田深志は片手でハンドルを握り、一瞬の気の緩みで前の車に衝突しそうになった。
「今村執事、まず救急車を呼んで、それから場所を教えてください。すぐに向かいます」
電話越しに、今村執事の声が震えているのが分かった。すでに恐怖で正気を失っているようだった。藤田深志はそちらの状況がどうなっているのか想像することも、詳しく尋ねることもできなかった。ただ冷静に心を落ち着かせてこの事態に対処するしかなかった。
今村執事から送られてきた住所を確認すると、すぐに車を転回させて向かった。途中、何回も赤信号を無視したことだろう。
事故現場はすでに警察によって規制され、パトカーや救急車が次々と到着していた。
藤田深志は他のことは気にせず、直接現場に飛び込んで、数人の医療スタッフが祖父の救命処置をしているのを目にした。
今村執事は藤田深志を見つけると、まるで心の支えを見つけたかのように、地面に倒れ込んで彼の足にすがりついて泣きながら言った。
「若旦那様、やっと来てくださいました。曲がり角で乗用車と衝突したんです。相手の運転手は飲酒運転で、スピード超過でした。ご主人は直接衝突は免れましたが、ショックで気を失われました。医師が先ほど、心筋梗塞だと言っていて、今は危険な状態です」
藤田深志は血の気が引いた祖父の顔を見つめ、瞳を深く沈ませた。今や彼がビジネス界でどれほどの手腕を持っていようと、何の助けにもならない。ただこの医療スタッフたちに望みを託すしかなかった。
ついに、祖父に心肺蘇生を施していた医師がほっと息をつき、喜びの表情を浮かべた。
「蘇生に成功しました!今すぐ救急車で病院へ搬送します。人工呼吸器を装着します!」
白衣の天使たちが忙しく動き始め、藤田深志も救急車に同乗し、病院まで付き添った。
祖父の容態は安定したものの、まだ意識は戻らなかった。
藤田深志はようやく鈴木之恵に電話をかけた。
その時、鈴木之恵は見知らぬベッドの上で寝返りを打っていた。藤田深志からの電話に全身が震えた。妊婦用マルチビタミンを見つけられたのではないだろうか?
不安な気持ちを抱えながら電話に出ると、
「祖父が入院した。来てくれないか。目が覚めたら必ずお前を探すだろう」