第150章 彼に後継ぎを残す

藤田深志は秋山奈緒に電話をかけると、向こうから年老いた悲しげな男性の声が聞こえてきた。秋山泰成だとわかった。

「藤田社長、やっと連絡が取れました。奈緒が心臓発作を起こしたんです。彼女のことを大切にしてやってください。あの子は可哀想で、散々苦労してきました。あの年に溺れなければ...」

電話の向こうで、秋山泰成は涙を拭いながら一旦言葉を切り、「まあ、昔のことは言うまい。ただ、奈緒の体はもうこれ以上のショックに耐えられません。会いに来てやってください。お腹には貴方の子供がいるんですから。」

秋山泰成は、あの年に奈緒が藤田深志を救おうとして溺れかけ、心臓病を患うことになった件を意図的に持ち出し、藤田深志の同情を誘い、負い目を感じさせようとした。

奈緒が発作を起こして藤田深志に電話をかけても応答がなく、やっと藤田晴香が通話できた後も彼が現れなかったことから、秋山泰成は藤田深志が逃避していることを悟っていた。