藤田深志もこのような場面は初めてではなかった。秋山奈緒が帰国して以来、発作を起こす回数は数え切れないほどだった。今回が以前と違うのは、お腹に子供がいることだった。
その子供は彼の子供だった。
間違いなく、秋山奈緒は彼を縛り付けるもう一つの切り札を手に入れた。
自分がした愚かな行為のせいで、彼はそのまま放っておくことができず、あの夜に戻ることもできなかった。もし今日のような事態になることを知っていたら、死んでも彼女と酒を飲んで昔話をすることはなかっただろう。
藤田深志は黙り込んだ。部屋の中の二人の老人を見たくもなかった。特に秋山泰成を。彼は秋山奈緒に向かって言った。
「帰国してから具合が悪くなるのは、適切な医者を見つけていないからかもしれない。アメリカの専門家と連絡を取った。心臓病の分野では権威だ。来週の水曜日に時間があるそうだ。私たちが向こうに行くか、それとも彼をこちらに呼ぶか、どうする?」
藤田深志が選択肢を投げかけると、秋山奈緒は彼が医者を探そうとしていることを聞いて、瞬時に慌てた。
もし彼が連絡を取った専門家が来たら、彼女の心臓病が既に治っているという事実がばれてしまうのではないか?国内の医者なら事前に買収できるが、彼が連絡を取った医者が彼女の嘘に加担するはずがない。
そうなれば、彼女自身だけでなく、お腹の子供も彼に強制的に処理されてしまうかもしれない。そうなれば、彼女は一生藤田家とは縁がなくなってしまう。
藤田夫人になることは彼女の子供の頃からの夢だった。これほど長年苦心して築き上げてきたものを、台無しにするわけにはいかない。
そう考えると、秋山奈緒は感情を抑え、できるだけ冷静になろうとした。
「深志さん、そんな面倒なことは必要ありません。私はただ気分が悪くなって発作を起こしただけです。アメリカの主治医とはメールのやり取りを続けていて、問題ないと言われています。気分さえ良ければ大丈夫なんです。」
秋山泰成も同調して言った。
「藤田社長、奈緒は妊娠のせいですよ。女性は特別な時期で感情の波が激しいものです。あなたが彼女を甘やかしてあげれば、毎日あなたを見られて、自然と気分も良くなり、病気なんて起こさないでしょう。そんなお金を使う必要はありませんよ。」