第162章 見慣れた他人

鈴木之恵が取調室に連れて来られた時、藤田深志は誇り高く決して頭を下げない雄獅子のようだった。彼は生まれながらにして食物連鎖の頂点に立つ男で、どんな場面でも恐れることはなかった。

警察は彼女を藤田深志の向かい側に座らせ、

「車の中で起きたことを遠慮なく話してください。真実であれば、私たちがあなたを守ります!」

鈴木之恵は藤田深志を横目で見た。車の中では実質的な何も起きていなかった。もし彼女が藤田深志による性的暴行を主張したとしても、警察には判断のしようがない。

結局のところ、監視カメラには映っておらず、証拠もない。

そして、藤田深志の手腕をもってすれば、誰も彼に何もできないだろう。

鈴木之恵が心配していたのは、もし何かの風評が祖父の耳に入れば、今の祖父にとって間違いなく大きな打撃となることだった。彼女は長い間考えた末、口を開いた。