老人は頑固に主張し、皆は説得できなかった。
今村執事は紙とペンを持ってきて、
「ご主人様、全て準備できました。」
老人は枕に寄りかかり、病室を見回しながらゆっくりと口を開いた。
「私が持っている藤田グループの株式は、藤田正安に15パーセント、藤田晋司に15パーセントを与える。お前たち兄弟に半分ずつ、公平な配分だと思うが?」
藤田正安は一歩前に出て老人の手を握り、
「お父さん、家族なのでそんなことは気にしません。」
老人は続けて、
「蓮華は藤田家に嫁いで長年、家をきちんと切り盛りしてくれた、良い子だ。私名義の不動産は全てお前と晴香に渡す。」
陶山蓮華は涙を拭いながら、「お父様、まだまだお元気なのに、これらの不動産は引き続きお父様ご自身で管理なさってください。」
皆が泣き顔をしている中、藤田晴香だけが心の中で喜んでいた。
祖父の名義の不動産は全国に点在しており、どれか一つを売るだけでも半年は贅沢に暮らせるほどだった。彼女は以前、祖父が鈴木之恵を偏愛していると不満を漏らしていたが、今や事実が分かった。遺産分与の際に彼女を呼ばなかったのは、完全に他人として扱っているからで、以前は表面的な付き合いに過ぎなかったのだ。所詮、他姓の人間を本当に可愛がるはずがない。
他人は他人、どんなに言っても実の孫娘にはかなわない。藤田晴香は今、祖父がやはり物事をはっきり分かっていると感じた。
彼女は心の中で大きく笑い、今すぐにでも親友の秋山奈緒にこの喜びを分かち合いたかった。
老人は少し休んでから続けて、
「今村さん、君は私が藤田グループを創業した時から何十年も助手として側にいてくれた。良いことも悪いことも全てやってくれた。私は心の中で既に君を兄弟のように思っている。ガレージの車を2台好きに選んでくれ。それと、あの乗馬クラブは今村彰に任せよう。」
今村執事は身に余る光栄に驚いた。老人が遺産分与で自分のような部外者にまで配慮するとは思ってもみなかった。車をもらえるだけでなく、息子の今村彰まで考えてくれていた。さらに感動したのは、老人が自分を兄弟のように思ってくれていると言ったことだった。彼は深く感動した。
「ご主人様、そんなことを仰らないでください。医者も仰っていましたが、お体は大丈夫です。ゆっくり養生なさってください。」