第172章 吐き気がするほど

柏木正は車を錦園に戻し、藤田深志の家の外に直接停めた。

藤田深志は目を上げて外を見て、冷たく言った。

「17号棟に停めろ」

柏木正は社長がなぜ17号棟に車を停めるよう指示したのか分からなかったが、言われた通りにするしかなかった。

社長の表情が良くないので、余計な質問はせず、黙っていた方が無難だと思った。

藤田深志は車を降りてインターホンを押した。数回鳴らすと、秋山奈緒が部屋着姿で、お腹に放射線防護ベストを着けて出てきた。

「深志さん...」

秋山奈緒は自分が悪いと分かっていたので、まず目を赤くして可哀想な振りをした。「深志さん」という呼びかけは哀れっぽく、まるで大きな不当な扱いを受けたかのようだった。

藤田深志の鷹のような目が彼女を見つめ、彼女は怖くて頭を下げた。

彼は彼女の横を通り過ぎて中に入り、この家の中を見回した。彼と鈴木之恵が今住んでいる部屋と全く同じ間取りだった。秋山奈緒が先日お金を要求したのは家を買うためだと知っていた。それは彼が以前約束したことでもあったが、この狂った女が錦園に家を買うとは思わなかった。