電話を切ると、藤田深志は車の中に座り込み、タバコを挟んだ手を車の窓に置いた。タバコは半分まで燃えていたが、一向に吸おうとしなかった。
しばらくして、彼はそのタバコを消し、残りの半箱も片付けた。まるでもう二度と吸わないと決意したかのように。
約十数分後、柏木正が位置情報を送ってきた。
「社長、奥様はこのマンションに引っ越されました。これが住所です。」
彼はシートベルトを締め、ゆっくりと車を病院から出した。
一方、鈴木之恵はSWANの上層部からメールを受け取った。アメリカでの勤務を提案され、給料は数倍に跳ね上がり、提示された条件は魅力的だった。彼女は長い間迷って返信を保留にしていた。
二人の赤ちゃんを連れて見知らぬ国で暮らしていけるか自信がなかった。
京都府を離れることは考えていたが、日本を離れることまでは考えていなかった。自国にいれば、少なくとも友人がいる。連絡を取らなくても、何となく心が落ち着く。
パソコンを閉じてWeChatを開き、八木修二と八木真菜との三人グループで尋ねた。
「赤ちゃんを連れて海外で働くのはどう思う?」
八木真菜の返信は早かった。
「藤田のクズがいなければ、どこに行っても良いわよ。子供を連れて遠くに行きなさい。あいつを京都府に置いて、他人の子供の父親にでもなればいいわ。ハハハ、藤田深志が真実を知った時の顔が見たいわ。」
鈴木之恵は八木真菜の言葉で心が決まった。確かに彼から遠ざかるべきだ。遠ければ遠いほど良い。できれば二度と会わないほうがいい。
そう考えて、すぐにSWANにメールを返信した。
【貴社の条件を承諾いたします。半月後に正式に着任可能です。】
メールを送信してから数分も経たないうちに、先方から契約書が送られてきた。問題がないか確認し、問題なければオンラインで署名できるとのことだった。
鈴木之恵は驚いた。向こうは真夜中のはずなのに、SWANの上層部が彼女の返信を待っていたとは思わなかった。相手のこの誠意に感動を覚えた。
契約書には現地での待遇が明確に記載されており、最も重要なのは住居の手配をしてくれることで、これで多くの手間が省けた。
手元の携帯が鳴り、彼女は受話器を取った。