鈴木之恵は不動産屋が連れてきた女の子に授業を終えると、すぐに新作の準備に取り掛かり、忙しさのあまり時間を忘れて、そのまま机で寝てしまった。
藤田深志が帰ってきたとき、しばらくノックしても応答がなく、電話も通じなかった。
彼はドアの外で数分間待ち、ドアロックの暗証番号を試してみた。まず彼女の誕生日を入力したが、間違いだと表示された。次に自分の誕生日を入力してもダメで、結婚記念日に変えたとき、ドアロックがカチッと音を立てて開いた。
彼は柏木正を追い払い、長い脚で中に入るとまず靴を脱いだ。
リビングは静かで、寝室にも彼女の姿はなかった。
書斎の明かりがついていて、彼はゆっくりと近づき、書斎の入り口で立ち止まった。
鈴木之恵は机に伏せて、手に鉛筆を握ったまま。黒髪は頭の上でお団子にまとめられ、気持ちよさそうに眠っていた。
紙の上のデザインはまだ完成していなかったが、ブレスレットだということがわかった。
藤田深志は目を細めた。以前、彼女はよく彼の書斎で寝ていた。昔は彼女のデザインを落書きだと思っていたが、今は彼女の隠された身分を知って自分が愚かだったと感じた。
彼は近寄って彼女の紙の上のデザイン画を注意深く見た。確かに一筆一筆が自由に描かれており、会社のデザイナーたちのように、紙や筆に厳しい要求を持たず、他の道具も使わなかった。
彼女は鉛筆一本あれば十分で、時にはインスピレーションが湧くと、ティッシュペーパーに直接描くこともあった。
藤田深志は彼女が握っていた鉛筆を抜き取り、腕を彼女の膝の下に入れて抱き上げた。視線は彼女の腹部に落ち、小さな体を抱きしめると、何か重みが増したように感じた。
鈴木之恵はそれほど深く眠っていなかったので、浮遊感を感じると目を覚ました。
鼻先に漂う薄いアルコールの香りと、彼が普段使っているパインの香り。
「また来たの?」
藤田深志の大きな足が一瞬止まった。また?これは彼を歓迎していないという意味か。
今や彼は面子なんて気にしていなかった。歓迎されようがされまいが、とにかく、彼はもう来てしまったし、ここで一晩過ごすつもりだった。
彼は抱いていた人を優しく布団に寝かせ、掛け布団をかけた。