第186章 狂気

「藤田社長、人が来ました」

専門家は50歳を過ぎた女医で、簡単な挨拶を交わした後、一行はエレベーターに乗った。

柏木正が先頭に立って案内し、秋山奈緒の病室に近づくと、中から泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

一同は足を止め、数秒間互いに顔を見合わせた。

藤田深志は大股で前に進み、ドアを押し開けた。秋山奈緒は目を覚まし、ベッドの上に座っていた。髪は乱れ放題で、両手で布団の端をきつく握り締め、目は虚ろだった。

ドアに人影が見えると、とても恐ろしそうな表情を浮かべ、

「来ないで、来ないで、あなたを害するつもりはないから、他の人を探して...」

ジョナランの時と同じような意味不明な言葉を口にした。

秋山泰成は涙を流しながら、

「私の娘よ、どうして一眠りしただけで母親と同じように正気を失ってしまったんだ。お父さんを怖がらせないでくれ!」

院長は事態を察し、藤田深志に提案した。

「藤田社長、神経科の医師に診察してもらいましょうか?」

藤田深志は頷いた。

「急いで!」

彼は病室に入り、秋山奈緒の恐怖に満ちた目を見つめながら、彼女の意識を取り戻そうとした。

「奈緒、私だよ!」

秋山奈緒は彼を見ようともせず、ただ叫び続けた。

「来ないで、来ないで、私の子供の父は藤田グループの社長よ、いくらでも払うから、お腹の赤ちゃんを傷つけないで」

藤田深志の心は再び底なしの谷底に沈んだ。今回は専門家を呼んで秋山奈緒の病気を完全に治せると思っていた。彼女への借りも返し終わったはずだった。子供については、生まれたら大切に育て、巨額の金も渡すつもりだった。

しかし今となっては、難しそうだ。

心臓病に加えて新たな病気まで発症してしまった。

すぐに、院長は精神科の医師を連れてきた。

みんなはドア付近に通路を空け、医師が入って秋山奈緒を診察した。

「藤田社長、現在の診断では秋山さんは統合失調症を発症しています。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返すでしょう。発作は不快な刺激を受けた時に起こり、精神が不安定になります。その時期が過ぎれば普通の人のように戻ります」

藤田深志は理解した。つまり選択的な発狂だ。

「制御できますか?」

医師は残念そうに首を振った。