藤田深志は会社で遅くまで忙しく、お腹が空いたと感じた時には、ビルの外にはネオンサインが輝いていた。
柏木正が持ってきた夕食は小さなテーブルの上で冷めており、彼は食欲もなく、頭の中は混乱していた。
秋山奈緒からまた電話があり、ウェディングドレスを予約したから明日一緒に試着に行こうと言われたが、彼は返事に困った。彼女の死も生も、どちらも恐ろしかった。
彼女は生きていても死んでいても、彼を苦しめるだろう。
家政婦から奥様が食事を待っているとの連絡を受け、やっと電気を消して車に乗り込み、家路についた。
鈴木之恵は朝から夕方まで同じ場所に座り続け、ようやく聞き慣れたエンジン音が聞こえてきて、ほっと胸をなでおろした。
彼が帰ってきた。
藤田深志が玄関に入ると、視線は彼女に向けられた。
「どうして食事をしていないんだ?」
鈴木之恵は口元を緩ませて言った。「食欲がなくて、あなたと一緒に食べたかったの」
「なぜ電話をくれなかったんだ?」
鈴木之恵は心の中で苦笑した。もう何年も彼に電話をしていないことを思い出した。以前は彼の食事を心配し、夜遅くまで帰らないことを心配して、一日に三回も電話をしていた。
今はもう、そんな馬鹿なことはしない。
「帰ってくると言ったでしょう」
藤田深志は靴を脱いで近づき、二人は一人が立ち、一人が座ったまま見つめ合った。
鈴木之恵は彼の機嫌が悪いことがわかった。彼女も不愉快な話題を持ち出して、お互いを不機嫌にしたくなかった。
彼の心が家庭にある限り、秋山奈緒が一生彼にまとわりつくことはできないはずだと信じていた。
「こんな遅くまで、お腹が空いているでしょう?」
彼は彼女に手を差し出し、鈴木之恵は手を添えて、ゆっくりと立ち上がった。
この午後ずっと座っていたせいで、お尻が痺れていた。
キッチンの料理は何度も温め直されて新鮮さを失っていたので、家政婦が新しく作り直してくれた。
二人は小さなダイニングに座り、それぞれ心に思いを抱えながら茶碗の中の食事を口にした。
夜、鈴木之恵がお風呂を済ませてベッドに入ると、藤田深志が寄り添ってきて、彼女を抱きしめた。片手が彼女のお腹の半分を覆った。
「之恵、ちゃんと食事をしないと、赤ちゃんが丈夫に育たないよ。二人とも君みたいな食べ方の悪い痩せっぽちになったら困る」